日向の匂い

北風と太陽の話をご存知だろうか?

北風と太陽が、どちらが旅人の服をはがせられるか、競争する話。
北風がいくら強く吹いても、旅人は服をしっかり握って固く締める。
代わりに太陽がじっとぽかぽか旅人を照らすと、かれは暑くて服を脱ぎ始める。


私は、この話がすごく好きだ。

現象としては、寒いから脱がずに暑いから脱いだんだけれども、
北風は強くて冷たくて、強制的で強引だ。北風に対抗しようとしたら、
こっちも頑なになる。意地になって心を閉ざす。

でも太陽はじっと待ってくれる。明るく朗らかにすべてを包み込んでくれる。
失敗も間違いも全部。ただ、じっと待ってくれる。その人が心を開くのを。


日本にいたとき、仕事で日本人の下で働いたとき、いつも北風にさらされてきた。
がんばらなくちゃいけない。ついていかないといけない。何か、息苦しい。

中国で、太陽にあった。今の中国人の上司。
仕事を始めたばかりで何もできない自分を、何も言わず、見守ってくれた。
仕事にばかり集中して心を開こうとしない自分の心に光を照らしてくれた。
今でも、中国文化になじもうとしない自分を照らしてくれる。

義務も強制もここにはない。
すこし日向の匂いがする、優しい空間。


もうすぐ、上海歴4年目を迎える。
上海万博まですごい勢いで発展して「激動」そのものだろうけれど、
私はなぜか、ここで日向の匂いを感じる。


そして、それをもうすこし感じたい。